こんばんは。理学療法士目指して学校へ通っています、あずき (@azucky824 )です。
先日まで行かせて頂いた、2カ月にわたる臨床実習で初めて「呼吸リハビリ」というものに触れたのですが、仕事で普段慣れている&一般に関わりが深い整形外科と違うなと感じることが多く、戸惑った一方とても勉強にはなったので、語らせてもらおうと思います。
ちなみに同様の記事としてスポーツリハビリの世界に飛び込んだ話も書いています。
数が少ない「呼吸リハビリ」
皆さんが「リハビリ」という単語を聞いて思い浮かべるのはどんなシーンでしょうか?
おそらく、「2本の棒に捕まってふらふらしながらも頑張って歩く人」をイメージする方が多いんじゃないでしょうか。
一言でリハビリと言っても、専門職としてはいくつかのジャンルに分かれます。ここでざっくりと説明すると、骨折や捻挫・肩や腰の痛みでかかるのは整形外科の「運動器リハビリテーション」、脳卒中や事故での頸髄損傷といった麻痺の回復は「脳血管疾患等リハビリテーション」、心不全などを起こした方が再発を予防する「心大血管疾患リハビリテーション」、そして今回お世話になった「呼吸器リハビリテーション」。大きく分けてこの4つに分かれます。
この呼吸器リハビリ、日本呼吸器学会がまとめた情報では2016年時点で全国に894施設でしか行われていません。
全国の病院の数が厚生労働省の「2015年医療施設調査」によれば8,480施設であることを考えるとたったの10.5%しかない計算になります。
一方で呼吸器疾患の代表選手「慢性閉塞性肺疾患(COPD)」は厚生労働省の調査(慢性閉塞性肺疾患(COPD)の総患者数は26万1,000人 厚生労働省「平成26年患者調査の概況」より | 生活習慣病の調査・統計 | 一般社団法人 日本生活習慣病予防協会)では全国に26万1,000人もの患者がいるとされています。
その治療の場としての機能を考えると、単純計算で1施設あたり291人にのぼります。
もちろん、疾患としてはコレ以外にも肺がんや肺炎などメジャーなものも含まれるので、リハビリ施設がいかに少ないかが分かるかと思います。
どんな事をするのか
呼吸器のリハビリが整形外科などの患者さんに対するそれと大きく違うところは、骨折だったら骨は治りますが、肺の機能そのものは治らないんですよね。
根本的な原因を排除できない所からのスタートだ、というのが大きな違いであり呼吸器リハビリテーションの意義でもあります。今ある機能を、どう工夫して日常生活を豊かに過ごすかということを突き詰めて考えていくのが基本の姿勢だと僕は感じました。
具体的にどんなことをしていくのかざっくりと書いてみましょう。
呼吸法の指導
呼吸器リハビリテーションなので、呼吸そのものへの指導はいわずもがな重要です。一般の人レベルでも健康法のひとつとして呼吸法を取り入れているところは多いでしょう。
呼吸器リハビリではまず2つの呼吸について指導していきます。
腹式呼吸
まずは「腹式呼吸」これは一般的にも健康に良いとされているものですね。呼吸は主に横隔膜という筋肉によって行われています。
ただ、他にも胸の筋肉や首の筋肉によっても補助的に行われていて、特に女性では健康な方でもそういった補助金を優位に使う、胸式呼吸になっている場合も少なくありません。
△こういった動画もすぐに見つかります。それだけ関心が高いということでしょう。
でも胸式呼吸のなにがいけないのか、って話はあまり触れられていないように思うんです。
まず第一に横隔膜を使った腹式呼吸では呼吸そのものの効率が良いことが挙げられます。
呼吸の仕組みとしては、息を吸った時に肺をいかに広げるかというのが重要なのですが、首や胸の筋肉では「肋骨を引き上げて広がりやすいようにスペースをあける」といったイメージで、横隔膜は陰圧になっている胸腔(真空に近い状態)を外から引っ張るので、トイレで使うラバーカップ(スッポンっていうやつ)みたく、中の肺を直で引っ張って広げてくれる役割があります。
△比較的わかりやすい動画があるので見てみて下さい。
また、胸や首の筋肉はそもそも呼吸に対して力のある筋肉ではないので、かなり頑張ることになります。それはつまり筋疲労が生じます。
健康な人でも疲れると息があがりますよね?あれと同じで、息苦しさそのものを作る原因にもなってくるので「息苦しい→呼吸頑張る→呼吸で疲れる→息苦しい」という悪循環になってしまいます。
そういった意味で腹式呼吸はとても重要視されているわけです。
口すぼめ呼吸
もうひとつ指導する呼吸として「口すぼめ呼吸」というものがあります。
これは、主に気道そのものが閉塞(詰まっていたりして狭まっている状態)している方に有効とされています。
これは吐く息をすぼめた口から行うことで、ホースの先をつぶして水を出す時のように、圧力を高めようとしています。ホースの例えだと出る水の勢いが強いことに意識がいってしまいますが、潰している部分より手前の部分を思い浮かべると、水でパンパンになっていませんか?
つまり、あの部分が気道や気管支になっていて、内圧を高めて広げてくれるので、その後吸う時にすんなりと空気が入っていく、という仕組みです。
△看護学生向きで、やや小難しい気もしますがこういった解説動画もあります。
呼吸に合わせた動作の指導
呼吸の仕方そのもので話すと、もうひとつ呼吸に合わせた動き方を学ぶ必要があります。
息切れしないようにするには、色んな方法や考え方があるんですが、酸素を取り込んで消費するという呼吸そのものの目的からシンプルに考えると、「たくさん取り込む」と「消費を抑える」という2つがわかりやすいかなと思います。
この動作の指導は「消費を抑える」ほうの視点から見たものです。
△よく筋トレをする時に「息を止めてしまう」のが初心者にはありがちですが、あれはあんまり良くなくって、それを日常生活のレベルまで落とし込んで指導していくわけです。
息を止めないこと、息切れをする前に適切な時間休憩をとること、動くスピードはゆっくりにして、力はあまり入れずにしましょうみたいなことを指導していくことが多かった印象があります。
在宅酸素療法
みなさんは「在宅酸素療法」という言葉をご存知でしょうか?
△こんな風に、小さめのキャリーバッグとチューブをつけた方を見たことがあるんじゃないかな?と思います。
あれは簡単に言えば、呼吸法や動作を工夫してもどうしても血中の酸素が足りないって方が濃縮された酸素をボンベから直接吸っているものになります。
もし日常でああいった方を見ることがあれば、一般の方よりも疲れやすく息苦しさを感じているケースも多いので、電車などでは席を譲ってくださるとありがたいです。(運動能力そのものは結構あることも多いので動いている姿を見る分にはどこが悪いのか分からないかもしれません)
ああいった道具を紹介し、酸素の量などを設定するのもリハビリの1つですし、僕がお邪魔した施設でも使っている方はたくさんいらっしゃいました。
排痰法の指導
もうひとつ大事なものとして、痰(たん)の出し方を指導します。
痰ってそもそも何なのかっていうと、私達健康な人も日々分泌されているものなんですよね。それが病気にかかると量が増えて気道や気管支・肺の中に貯留してしまって酸素の取り込みを邪魔します。また、痰は菌を保有していることもあって、そういった意味でも出来る限り出せるようにしたほうが良いわけです。
そしてこの痰を出す時、2Kcalくらい消費するらしく、効率よくやらないとかなり疲れます。呼吸器疾患の患者さんは痩せ型の方が多いのですが、こういったことも関係していると言われています。
その効率の良いやり方として「Active Cycle of Breathing Technique」略して「ACBT」というものがあります。
大まかにいうと、「普通の呼吸→深呼吸→ハフィング(強くハーっと息を出すこと)→咳(せき)」という流れを行って出す方法です。
さらに理学療法士としては、ここに呼吸介助の方法としてスクイージングやカッピングなどの手技で排痰を補助していきます。
△日本人向けのACBTの動画はあまりなく、このあたりだと大まかにわかりやすいかなと思います。
スクイージングやカッピング(タッピングともいいます)については以下の動画を御覧ください。
身体能力の向上
疲れると息が上がる、という話を前述しましたが、そういった意味では持久力、いわゆる体力についても向上を図ります。
エルゴメータという自転車を使ったり、連続した歩行をトレッドミルや平地で行うことでトレーニングをしていきます。その時に動作と呼吸についての指導を行いながらになります。
ここまで来ると一般の人の健康増進とあまり変わらないかもしれませんね。
感じたこと
たばこの害は本当にヤバイ
まずみなさんにも強く伝えたいのは「たばこはヤバイ」ということ。
今回は肺のレントゲンや聴診で呼吸音についても実際に確認させて頂いたわけえすが、健康な人の状態と比べると明らかな異常が分かるわけです。
そしてほとんどの方にかなりヘビーな喫煙歴がありました。疾患を持ってからは辞めているのですが、前述したとおり「肺は治らない」ので、若い時の不摂生を一生引きずっていくわけになります。
手術することになっても、出血しやすかったり、他組織との癒着があったりして難易度が増してしまいます。そして実際に手術の見学もさせていただいたのですが、生で見たあのススで汚れた肺を見たらとても吸おうとは思えないですね。
他人にも迷惑かけるし、中毒性があるし、本当にいいことないなと思いました。もし周りに吸っている方がいるなら絶対に辞めるべきだと伝えて頂きたいものです。
患者さんは息苦しさ以外の能力は高いことが多かった
僕が接した患者さんの多くは、整形外科と違って、日常生活を過ごす能力には問題ないケースが多かったのは印象的でした。力も可動性もあるのに、息苦しさだけが邪魔して行動が制限されてしまうのはとても残念そうだったと感じました。
また、我慢すれば出来てしまうために息苦しさを放置して、もはやどうにもならないくらい悪化してしまったという方もいらっしゃいましたので、早めに治療することをおすすめしておきます。
まだまだわかっていないことも多い
レポートを書くにあたって、呼吸に関する論文もいくつか読みましたが、携わる人が少ないためか、研究があまりすすんでいない分野なのだと感じました。
例えば、同じ疾患でも痰が凄い出る人出ない人がいる理由とか、疾患に対して運動が寿命を延ばす結果になるのかどうか、とか。そもそものリハビリを行う上で前提となる情報もかなり不足している状況です。
論文の数も少なくて、例えば「骨折」だと30000件以上ヒット(CiNii Articles 検索 – 骨折
)するのに対し、「肺MAC症」(CiNii Articles 検索 – 肺MAC症)と検索すると60件程度しかヒットしません。もちろん今回検索した単語そのものの意味する広さに違いはありますが、それでも相当少ないですよね。
健康な人にも使える考え方が多い
息切れって、病気の人だけではなくて私達健康な人にもありますよね。
「歳食ってから息切れするようになったなー」ってなった時に、じゃあそれが何で起こされてるんだろう?っていうのは今回呼吸器リハビリに関わらせてもらって、考え方が通じるなーと考えました。
また、呼吸は命に直結する問題でもあるので、健康そのものに深いかかわりがありますよね。
まとめ
呼吸器のリハビリはとても深くって、普段働いている整形外科の患者さんやリハビリの考え方ともかなり違うのだと知りました。そういった意味ではとても勉強になったと思いますし、もっともっと知らなくてはいけない分野でもあるなと考えます。
そして、理学療法士は患者さんと関わったことを共有しないといけないなとも感じました。簡単にでもいいからどんどん論文化して、情報を蓄積する役目を負う必要があるなと。そういった一人ひとりの取り組みがたぶんこれからのリハビリテーションの世界を構築していくわけで。
学生のうちはもちろん、これからもたくさん勉強していこうと思いました。それではあずき (@azucky824 )でしたー。